「左派の経済理論」であるMMTが重要な理由
筆者は、「日本の経済を停滞させ、かつ社会を様々な側面から崩壊させている主因は、緊縮財政である」という立場から、かれこれ15年以上言論活動を行ってきました。
そうした中で、現状を打破する考え方や処方箋の基礎となる経済理論として行き着いたのが、1990年代半ばに登場し、とりわけ2019年以降世界的に注目度を高めている、MMTこと現代貨幣理論です。
直近でも4月25日より、MMTをテーマとした一般向けの公開講座を早稲田大学にて行いますので、ご興味のある方は是非ご参加ください。
非現実的な主流派経済学(新古典派経済学)の世界観(特に貨幣観)を真っ向から否定するMMTに対しては、主流派経済学を奉じる学者や知識人、あるいは彼らの言説に影響された多くの人々からは、当然ながら激しい批判や反発が浴びせられています。
しかし、こうした反応は決して主流派経済学を奉じる人々だけではなく、主流派経済学に違和感を表明する人々の中にも、MMTは「(危険、あるいは時代遅れである)左派の経済理論」であるとして、否定あるいは忌避する向きは少なくありません。
確かに、筆者が監訳した『MMT現代貨幣理論入門』の著者であるランダル・レイは自らが「進歩派」であることを同書の中でも表明していますし、『財政赤字の神話』の著者であるステファニー・ケルトンは「民主社会主義者」を自認するバーニー・サンダース米上院議員の顧問を務めるなど、MMTの主唱者たちの多くが左派に属しているのは事実です。
一方で、主流派経済学に対峙する左派の学者や知識人の多くも、MMTに対する批判や反発、あるいは違和感を表明しています。
例えば、前述した『MMT現代貨幣理論入門』の巻末解説を執筆したマルクス経済学者の松尾匡氏(立命館大学教授)は、MMTを「米英急進左派の経済政策理論のひとつ」と指摘し、その主張を「まともな経済学者なら誰でも認める知的常識の類」と評しながらも、MMTの貨幣観ひいては国家観に対して違和感を表明しています。
とはいえ、松尾氏はまだ好意的な方で、東洋経済オンラインの拙稿「「MMT」はどうして多くの経済学者に嫌われるのか」で取り上げたマルクス経済学者の伊藤修氏のようにほぼ全面的に拒絶するのが、左派(あるいは非主流派)の中でもむしろ普通と言えるでしょう。
そして、松尾氏が上記巻末解説で指摘しているように、日本では「MMT支持を表明した論客や政治家は、〔巻頭解説を担当した評論家の中野剛志氏をはじめとする一部の〕保守派ばかり」という、欧米とはかなり異なる状況です。
このような、日本における評価のねじれは、「左派」なるものに対する誤解、もしくは偏った理解があると考えられます。