経済システムのイノベーターとしての近代ヨーロッパ国家
世の中を大きく変えてしまうような仕組みや技術の革新、いわゆるイノベーションといえば、独創的な個人や企業が起こすものというイメージを持つ人が多いかもしれません。
よく引き合いに出されるのが、スマートフォン(iPhone)という画期的な商品を投入して全世界に多大なインパクトを与えた、アップル及びその創業者であるスティーブ・ジョブスです。
しかし、iPhoneのみならず、IT産業で用いられている中核的・先端的な技術の多くは米国政府の何十年にもわたる研究支援や財政援助によって開発されたものであり、アップルやジョブスは既存技術の組み合わせとデザインを巧妙に行ったに過ぎないと喝破しているのが、イタリア出身の経済学者マリアナ・マッツカートです。
その著書『企業家としての国家』第5章のタイトルは、まさしく「国家の力で実現したiPhone」となっているのです。
産業構造を根底から創造・革新するような技術やインフラの開発には数十年単位の投資活動が必要であり、到底民間レベルで対応できるようなものではないというのが、マッツカートの指摘です。
その意味では、まだ世に出ていない革新的な技術をいち早く見出し、資金の出し手としてイノベーションを支える存在として喧伝される民間のベンチャーキャピタルなども、実際には国家の支援で形になった後の技術に出資しているに過ぎず、その貢献度からすれば過大なリターンを享受していることが、むしろ問題視されています。
そもそも米国では、IT産業のみならず、産業政策という建国以来の伝統の下で、鉄道や自動車など、数々の重要産業が育成されてきました。
そのことは、スティーヴン・S.コーエン/J.ブラッドフォード・デロング著『アメリカ経済政策入門』などでも指摘されています。
しかし、さらに歴史をさかのぼれば、特定の産業だけではなく、資本主義というシステムそのものが、国家の活動によって形作られた。
そのことを示唆する本があるのです。